久我山病院では2002(平成14年)年9月より産婦人科中村幸雄医師・院長(2005年3月以前は杏林大学主任教授)、放射線科可知謙治医師によりUAEを開始しています。産婦人科中村幸雄医師のUAE経験例は、杏林大学における約150例のUAE症例をあわせると約500例に達します。
2005年12月に杏林医学会雑誌に発表した久我山病院のUAE成績(2002年9月より2005年11月間での127例例)に加え、その後久我山病院で行ったUAE症例のうち術後3ヶ月以上連続的に経過観察を行い得た164症例についての成績を示します。
当院では塞栓物質として全例ゼラチンスポンジを用いました。
| 1.子宮、筋腫核の縮小 |
|---|
MRI画像から算定したUAE前の体積を100%とすると、子宮体積(139例)はUAE後1ヶ月:76.7±1.7%(平均±標準誤差)、3ヶ月後:65.0±2.0%、6ヶ月後:57.8±2.6%、1年後:53.0±3.3%、1年6ヶ月後:45.6±3.6%、2年後:39.5±6.2%に縮小していました。 筋腫核体積(216個)はUAE後1ヶ月:80.6±2.2%(平均±標準誤差)、3ヶ月後:63.1±3.0%、6ヶ月後:53.5±4.5%、1年後:46.7±3.0%、1年6ヶ月後:38.6±4.3%、2年後:32.3±43%に縮小していました。 2年後以後も徐々に縮小する傾向があります。 UAE前後にMRIの造影撮影を行うと、UAE前は子宮本体、筋腫核も強く造影されますが(図UAE前)、UAE後1ヶ月には多発した筋腫核でもすべては造影されず(図UAE後)、それ以外の部位(子宮筋層、内膜など)はUAE後1ヶ月でも造影されます(UAE後観察期間最長3年の造影写真でも同様に筋腫核は造影されていません)。 ![]() このことは筋腫核への血流のみがUAE後減少していることを意味しており、そのため筋腫核は縮小して、再増大の危険性もなくなります。それ以外の子宮筋層、内膜は造影されていますから、UAE後に血流は回復しUAEの影響を受けていないことが分かります。 子宮筋腫に筋腫核のみを摘出する筋腫核出術は挙児希望者によく行われる手術ですが、筋腫が多発している場合,米粒大ぐらいの小さな筋腫核は手術の時にわからないため取り残すことになります。これらの取り残された筋腫核がやがて増大して大きな筋腫になり、再び手術が必要になることがあります。どの程度の割合で取り残された筋腫核が増大するかは,はっきりしませんが,筋腫核出術後に再び筋腫核が大きくなったためUAEを行った9症例の方は、その後筋腫核は縮小し、症状も軽快しています。このことから私どもは1〜2個と筋腫核がはっきりしている場合を除き,多数の筋腫核が存在する場合は筋腫核出よりUAEを先行することを勧めています。UAE後に筋腫核がなくなる訳ではありませんが,UAE後に筋腫核の再増大はほとんど見られません。残った筋腫核が妊娠に邪魔になるような場合は、初めて筋腫核出術を行います。UAE後は、残った筋腫核の再増大の危険性は無くなります。 |
| 2.UAE不成功例および術後手術例 |
両側のUAEが不成功に終わった症例は1例もありませんでしたが、片方の子宮動脈のUAEが不成功に終わった症例は3例ありました。いずれもUAE経験の少なかった2004年3月(2例)と9月の症例です。3月の症例のうち1例は術後1ヶ月に来院しましたが、その後は来院していませんので、経過はわかりません。この症例は1ヶ月後には筋腫の縮小は見られていませんが過多月経、月経痛は軽快していました。他の1例はUAE後筋腫核は縮小していました。9月の症例は2006年4月に再度UAEを行い、2.5ヶ月後に変性筋腫が排出され14.5×10×12pあった筋腫核は全く消失しました。これらの2症例以外は全例にUAE成功しております。しかし2008年になり1例の片側UAE不能例を経験しました.この症例も時期を見てもう一度UAEを試みる予定です。 UAE後筋腫核が再び増大したため手術した症例は2例ありました。一例は41才既婚1経妊1経産、10.5×7×11pの漿膜下筋腫のためUAEを行いました。UAEは成功し、術前にあった強度の過多月経は消失しました。UAE後1年6ヶ月に筋腫核は再増大しはじめ、腹痛も出現し、造影MRIでも筋腫核が造影されました。子宮肉腫の可能性は低いですが、完全に否定出来ませんでしたので、本人の了解のもとに子宮単純全摘を行いました。手術後の病理学的検査では、子宮肉腫ではなく筋腫核内の血管増生がきわめて著しい特殊な形の子宮筋腫と判明しました。 他の一例は39才既婚、妊娠の既往はなく、10×10×10pの漿膜下筋腫とチョコレート嚢腫を認めました。UAE後筋腫核は約70%に縮小しましたが,1年6ヶ月後の造影MRIでは、筋腫核は135%に増大し,筋腫核も造影されていました。挙児希望もあるため筋腫核出およびチョコレート嚢腫摘出を行いました。核出した筋腫核は病理学的にはSTUMP(悪性度不明な平滑筋腫)と言う特殊なタイプの子宮筋腫と判明しました。 いずれの症例も経過順調で、術後6ヶ月の検診では異常を認めておりません。 |
| 3.月経血量 |
術前に過多月経であった症例で、UAE後3ヶ月以上月経血量を経過観察出来た184例は、全例UAE後に月経血量がUAE前より減少していました。 |
| 4.無月経 |
3ヶ月以上月経の状態を経過観察出来た201症例のうち、UAE後無月経になった症例は,17例(8.5%)存在しましたが,そのうち内分泌学的、症状、年令からみて閉経になったと思われる7症例(3.5%)を除くと10例(5.0%)が無月経になっていますが、UAE後3ヶ月以降のホルモン測定値から判断してみますと、この10症例はいずれも卵巣の機能は正常でありました。恐らくこれらの症例はUAEによって筋腫核のほかに子宮内膜も障害を受けたため子宮性無月経になったものと思われます。40才の症例は術後8ヶ月に排卵誘発剤で排卵しています。無月経が続く症例のうち、40才未満は31、37、39才の3例です。このうち31才の症例は他医にて自律神経失調症と診断され、本人は月経の再開を望んでいません。術後の無月経の防止法の研究が今後の課題です。 |
| 5.月経痛 |
UAE前に月経痛が強度と訴えた55症例のうち,術後の月経痛の記載のない17例を除く38例中37例は月経痛が無くなるか減少し,1例は術後変化無しでした。 UAE前に月経痛が中等度と訴えた48症例のうち,術後の月経痛の記載のない14例を除く34例中32例は月経痛が無くなるか減少し,2例は術後変化無しでした。 UAE前に月経痛が軽度と訴えた59症例のうち,術後の月経痛の記載のない21例を除く38例中36例は月経痛が無くなるか減少し,1例は術後変化無し、1例は増悪していますが筋腫核は術後6ヶ月に63.5%に縮小しています。 全体として術後の月経痛の記載のはっきりしている110例のうち105例(95.5%)がUAE後に月経痛が無くなるか減少していました。 |
| 6.筋腫分娩,変性筋腫核の感染 |
UAE後、変性した筋腫核が膣内に脱出(筋腫分娩)してくることがあります。 筋腫分娩が起こるのは、粘膜下筋腫の場合によく見られます。筋腫核の大きさが5cm以下ぐらいの場合はUAE後1ヶ月以降に起こることが多く、多く場合は感染兆候無しに、多少の出血、帯下と共に排出されてしまいます。帯下、出血の中に何か肉の塊のようなものが入っていたと言う場合が多いようです。私どもは筋腫分娩の症例を18例経験しています。 もし変性して感染した筋腫核が排出されない場合は、軽い麻酔をかけて掻爬、あるいはTCR(経頚管的切除術)を行います。1-2日の入院が必要となります。私どもはこのような症例を5例経験しています。この処置を行うのは早すぎて筋腫核の変性が少なく、こちこちに固い場合は困難ですので、発熱が軽度で、全身症状が悪くなければ、筋腫核が柔らかくなり処置し易くなるまで待ったほうが操作は容易です。 |
| 7.UAE術後の疼痛 |
痛みの感じ方は個人差が強いですが、UAE直後から激しい月経痛様の疼痛が起こります。一時硬膜外麻酔を行った時期もありますが、効果が全くないため前から行っていたPCAポンプを再び用いることにしました。さらに最近、ゼラチンスポンジの粒子をあまり細かくしないで大きな粒子で行うようにしましたら、術後の疼痛は従来に比べ大幅に軽減されました。しかし、100%無くなるわけではありません。人によってはかなり強い疼痛があり鎮痛剤を必要とする場合もあります。 |
| 8.妊孕性 |
現在まで妊娠例は2例のみで、いずれの方も残念ながら流産に終わっています.一例は(40才)多発筋腫でUAE後も筋腫核は60-80%に縮小しましたが、術後6ヶ月で妊娠しましたが流産に終わってしまいました。本人の希望もありUAE後2年後に筋腫核出を行い経過観察中です。もう1例(30才)は,単一筋腫で術後6ヶ月に妊娠しましたが流産(筋腫核は72%に縮小)してしまいました。術後3年経過していますがまだ妊娠していません。 最近ごく少数ではありますがUAE後に子宮内膜が障害され無月経になる症例が存在することが分かりました。挙児希望者にUAEを行う場合にはこのこともお話しして了解を得た後UAEを行うことにしています。 |